東京高等裁判所 平成7年(行ケ)34号 判決 1997年1月21日
東京都渋谷区鶯谷町2番3号
原告
株式会社ソア・システムズ
同代表者代表取締役
吉田源治郎
同訴訟代理人弁理士
岡誠一
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
同指定代理人
菅野嘉昭
同
及川泰嘉
同
関口博
主文
特許庁が平成3年審判第23596号事件について平成6年11月18日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
株式会社ソアは、昭和57年5月17日、名称を「データ記録方式」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和57年特許願第81476号)をしたが、平成3年10月21日拒絶査定を受けたので、同年12月11日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成3年審判第23596号事件として審理した結果、平成6年11月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成7年1月18日株式会社ソアに送達された。
原告は、平成7年2月16日、株式会社ソアから本願発明につき特許を受ける権利を譲り受け、同日その旨を特許庁長官に届け出た。
2 本願発明の要旨
ダイレクトアクセス型データ記録担体にデータを記録する際、各トラックに記録するデータの項目をレコードごとに文字項目と数値項目とにグループ分けし、各文字項目の後に文字項目および数値項目に含まれない第1の識別記号を、また、最後の数値項目を除く各数値項目の後に数値項目に含まれない第2の識別記号をそれぞれ設け、シーケンシャルに記録することを特徴とするデータ記録方式。
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) これに対し、特開昭51-120138号公報(以下「引用例」という。)には、可変長データの記録方式に関する発明が記載されていて、図示と共に、
「一定長の商品コード、可変長の数量、可変長の単価から構成される可変長データをメモリに記録する際、商品コード、商品コードを意味する機能コード[G]、数量、数量を意味する機能コード[+]、単価、及び単価を意味する機能コード[P]の順で、順次記録メモリに連続して書込むように制御し、メモリに意味を持たない領域(空領域)を介在させることなく記録する。これにより、メモリの容量を有効に用いて判別に支障をきたすことのない可変長データの記憶が行える効果を奏する。」旨、説明されている。
(3) そこで、本願発明と引用例に記載されたものとを比較検討すると、引用例に記載されたものの可変長データは、商品コード、数量、単価の複数の項目を有する1つのレコードには相違なく、かつ、該データは、商品コードとしての文字項目と、数量および単価の数値項目を有していて、商品コードの次に数量および単価の数値項目が順次記録されるようにされていることから、文字項目と、数値項目とはグループ分けされていることにも相違はない。さらに、これらの文字項目と各数値項目の間には、[G]、[+]、[P]等の、文字項目及び数値項目には含まれない機能コードが含まれ、該機能コードは、引用例の“判別に支障をきたすことのない”の前記記載から各項目の識別作用を有することも明白である。また、引用例に記載されたもののメモリが何型であるかは明記がないが、メモリとして、フロッピイディスクなどのダイレクトアクセス型データ記録担体は、最も一般に用いられている周知・慣用の即連想されるメモリであることから、ダイレクトアクセス型データ記録担体は、実質上記載されているに等しいものと認められる。
してみると、両者は、「ダイレクトアクセス型データ記録担体(メモリ、以下括弧内は引用例に記載されたものの記載を示す)にデータを記録する際、データの項目をレコードごとに文字項目(商品コード)と数値項目(数量、単価)とにグループ分けし、文字項目の後に文字項目および数値項目に含まれない識別記号(機能コード[G])を、また、各数値項目の後に数値項目に含まれない識別記号(機能コード[+]、[P])をそれぞれ設け、シーケンシャル(順次)に記録することを特徴とするデータ記録方式。」の点で一致し、次の<1>、<2>の点で相違するが、その余の構成には実質上の差異は認められない。
<1> 本願発明は、各トラックにレコードを記録し、最後の数値項目には識別記号を含まないのに対して、引用例に記載されたものは、トラックに関する明記がなく、かつ、最後の数値項目にも識別信号が含まれる点。<2> 本願発明は、文字項目も複数であって、かつ、文字項目用の第1の識別記号と、数値項目用の第2の識別記号の2種類の識別記号のみでグループ化しているのに対して、引用例に記載されたものは、文字項目は1つであって、かつ、各項目毎に異種の識別記号を用い、項目数に等しい多数の識別記号が用いられている点。
(4) 相違点<1>について検討する。
メモリとしてフロッピイディスクを用いる場合、各トラックにレコードを記録する方式は、余り一般的ではないが、当業者ならば容易に想到し得る程度のものであり、また、そのような記録方式とした場合、各レコードの最後のデータは、次のトラックのデータと連続記録されないことから、データの混同を生じることはなく、該最後のデータに識別記号を含ませることは必ずしも必要でないことは自明のことであり、最後の数値項目に識別記号を含ませるか否かは、必要に応じて適宜なし得る設計事項と認められ、この相違点で、格別な発明力を要したものとは認められない。
(5) 相違点<2>について検討する。
各項目の機能が異なり、その機能の識別を必要とする際には、引用例に記載されたもののように、各々の項目に異種の機能記号を含ませることが必要であるが、本願発明のように文字と、数値の2つの機能の識別のみが必要な場合は、2つの機能(識別)記号のみを用いてグループ化すれば良いことは、容易に想到し得るばかりでなく、その際、文字項目が複数存在する場合には、引用例に記載されたものの複数の数値項目のグループ化と同様に、文字項目のグループ化となすことも容易に想到し得ることと認められる。
そして、本願発明のようになすことにより、(引用例に記載されたものに比して)格別顕著な効果を奏するとも認められないことから、この相違点でも、格別の発明力を要したものとは認められない。
(6) したがって、本願発明は、引用例に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)、(2)は認める。
同(3)のうち、引用例に記載されたものが「文字項目と数値項目とはグループ分けされていることにも相違はない」こと、及び、両者は「データの項目をレコードごとに文字項目(商品コード)と数値項目(数量、単価)とにグループ分けし」、「各数値項目の後に数値項目に含まれない識別記号」を設けている点で一致することは争い、その余は認める。
同(4)は認める。
同(5)、(6)は争う。
審決は、引用例に記載されたものの認定を誤ったため本願発明と引用例に記載されたものとの一致点の認定を誤り、相違点<2>についての判断及び本願発明の効果についての判断を誤った結果、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は、本願発明と引用例に記載されたものとは「データの項目をレコードごとに文字項目(商品コード)と数値項目(数量、単価)とにグループ分けし」、「各数値項目の後に数値項目に含まれない識別記号」を設けている点で一致すると認定するが、誤りである。
<1> 引用例に記載されたものにおいては、「データの項目をレコードごとに文字項目(商品コード)と数値項目(数量、単価)とにグループ分けし」た点は、何ら示されていない。
<2> また、引用例に記載されたものにおいては、各数値項目の後には、文字項目及び数値項目に含まれない機能コードが設けられている。
(2) 取消事由2(相違点<2>についての判断の誤り)
審決は、相違点<2>について、「各項目の機能が異なり、その機能の識別を必要とする際には、引用例に記載されたもののように、各々の項目に異種の機能記号を含ませることが必要であるが、本願発明のように文字と、数値の2つの機能の識別のみが必要な場合は、2つの機能(識別)記号のみを用いてグループ化すれば良いことは、容易に想到し得るばかりでなく、その際、文字項目が複数存在する場合には、引用例に記載されたものの複数の数値項目のグループ化と同様に、文字項目のグループ化となすことも容易に想到し得ることと認められる。」と判断するが、誤りである。
<1> 引用例には、「文字と、数値の2つの機能の識別のみが必要」であることも、「グループ化」することも示されていないのであるから、「2つの機能(識別)記号のみを用いてグループ化すれば良いことは、容易に想到しうる」ことであるとは到底いえない。
すなわち、引用例に記載された記録方式は、記録部に可変長のデータをできるだけ多量に記録するために、データの種類に応じてそれぞれ異なる機能コードを付してシーケンシャルに記録するというものであり、データの種類を指示する必要性がない場合については何ら考慮するものではないから、引用例からそのような場合について読み取ることはできず、また、自明のことでもない。
<2> また、引用例には、「複数の数値項目のグループ化」は示されていないのであるから、「後者の複数の数値項目のグループ化と同様に、文字項目のグループ化となすことも容易に想到し得ること」という認定も誤りである。
(3) 取消事由3(効果についての判断の誤り)
審決は、「本願発明のようになすことにより、(引用例に記載されたものに比して)格別顕著な効果を奏するとも認められない」と判断するが、誤りである。
<1> 本願発明においては、各トラックに記録するデータの項目をレコードごとに文字項目と数値項目とにグループ分けし、各文字項目の後に第1の識別記号を、また、最後の数値項目を除く各数値項目の後に第2の識別記号をそれぞれ設けてシーケンシヤルに記録していることにより、このデータを読み取り、コンピユータ内で文字項目と数値項目とを振り分ける場合には、各項目ごとに一々文字項目であるか数値項目であるかの識別をする必要がなく、グループ分けされている文字項目と数値項目とをグループごと振り分けることができるから、ファイルのデータ構造を全く知らなくても(このルールに従って記録されていることさえ知っていれば)記録されたデータを解読することができ、従来不可欠であったファイル構造の定義を一切設ける必要がなく、すべてのデータファイルを共通的に効率よく扱うことができ、処理手順を少なくすることができるからプログラムを短くすることができる。
しかも、文字項目と数値項目とにグループ分けしたことにより、データの項目の種類がいくら多くなっても唯2個の(第2の識別記号の候補は多数あるから実質的には1個の)識別記号により各項目の境界を識別することができるという引用例に記載されたものにおいては到底期侍することのできない独特の作用効果を奏するものである。
<2> 被告は、本願発明もデータ処理の際外部記憶装置のデータを一時他のメモリに保持するものと認められるが、他のメモリへの保持は単なる複写による保持であるから、数値項目と文字項目とに分けて読み出しても他のメモリへの書き写しが速くなるわけでもない等と主張する。
しかしながら、引用例の記録方式による外部記憶装置を用いた場合には、機械的に読み出したデータを一旦電子計算機の内部メモリにそのまま書き写した後、次の段階のデータ処理として、各レコードごとに機能コードを目印にして各項目の境界、属性等を判別して文字項目と数値項目とに振り分け、文字項目は文字項目の記憶エリアへ、また、数値項目は数値項目の記憶エリアへそれぞれ記憶しなおすという処理が必要不可欠である。
これに対して、本願発明のデータ記録方式による外部記憶装置を用いた場合には、データの項目はレコードごとに文字項目と数値項目とにグループ分けされて記録されているから、直接、文字項目は文字項目の記憶エリアへ、また、数値項目は数値項目の記憶エリアへそれぞれ記憶することができ、文字項目と数値項目とに振り分けるというデータ処理を1段階省略することができる。この処理段階は電気的な処理であるから、データの量が多くなればなるほど処理速度において顕著な効果を奏するものである。したがって、被告の上記主張は失当である。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
<1> 引用例には、1個の文字項目(商品コード)の後に2個の数値項目(数量、単価)が記載され、文字項目と数値項目とが混在することなく分離されていることから、グループ化されているものである。
このことは、引用例の第1図(別紙参照)のように、いわゆる表形式で記載されるものは、各項目(商品コード、数量、単価)毎にグループ化されることによって初めて表形式をとれるもので、グループ化は表形式の前提条件であり、各項目も互いに項目の関連性などを基にグループを構成するように配置されるのが普通であることからも明らかである。また、引用例の第1図のものを更に展開し、例えば、同じ商品でも、色の違いによる色情報(文字情報)や数量×単価の合計金額(数値情報)の項目を追加する場合を想定すると、上記色情報は商品コードの次に、また、上記合計金額は単価の次に、それぞれ書くのが普通であると認められ、文字情報と数値情報のグループ化はより明確に理解できる。
したがって、「グループ化」は、明記されていなくとも、記載されているに等しい事項と認められる。
<2> 引用例の各数値項目の後に設けられている文字項目及び数値項目に含まれない機能コードは、データの種類を指示する機能を有するコードであるが、引用例の機能コードにより記録データの判別が出来る旨(甲第5号証3頁左上欄2行ないし8行)の記載及び第5図(別紙参照)からも明らかなように、数値項目と数値項目とを区別(識別)している識別コードでもある。
<3> よって、原告主張の一致点の認定の誤りはない。
(2) 取消事由2について
引用例に記載されたものでは、複数種類の識別記号を用いているため、例えば、合計計算等の演算時に、必要とする各データは、そのデータに用いられている識別記号を指定することによって、即読み出せるもので、その識別記号自体がアドレス情報を兼ねるものである。
これに対し、本願発明のように、1つの識別記号を用いる場合は、その識別記号とは別にアドレス(情報)が必要であるが、データの種類を指示する必要性がない場合(機能コードを用いないでデータの種類を識別するような場合)は、当然1種類の区切り符号でよいことは自明のことであるばかりでなく、通常、可変長データは1種類の区切り符号で区切り、シーケンス的に記録するのが普通のことである。そして、引用例に記載されたものも、文字項目と数値項目とにグループ化されていることは、前記(1)<1>に述べたとおりである。
したがって、審決の相違点<2>についての判断に誤りはない。
(3) 取消事由3について
<1> 引用例に記載されたものにおいても、コンピュータ内で文字項目と数値項目とに振り分ける場合には、文字項目を示す機能コードであるGを基に、Gに一致するコードを有するデータを文字項目、G以外のコード(すなわち、Gに一致しない機能コード以外のコード)を有するデータを数値項目として振り分ければ、原告が主張する各機能コードの機能の意味やデータ構造を知らなくとも、実質的に1つの機能(識別)コードGのみで、データの解読及び境界識別ができる等の効果を奏することができる。そして、この効果は、1つの識別記号を用いることによる自明程度の効果である。
<2> 原告は、データを読み取りコンピュータ内で文字項目と数値項目とに振り分ける場合には、各項目ごとに一々文字項目であるか数値項目であるかの識別をする必要がない旨主張するが、この点は、本願の特許請求の範囲に何ら記載がなく要旨外の主張として失当である。
原告は、数値項目と文字項目とのグループ化により外部記憶装置からのデータ読み取り時間の短縮化ができると主張する。読み出されたデータは、電子計算機が何らかの手法により所望のデータであることを識別・選択する間、一時RAMなどの内部メモリまたはバッファメモリ(以下「他のメモリ」という。)に記憶させる必要があること、及び、一般に外部記憶装置からデータを読み出す場合、一旦他のメモリに複写し該他のメモリにアクセスしてその処理を行うことが普通であることを考慮すると、本願発明のものもデータ処理の際外部記憶装置のデータを一時他のメモリに保持するものと認められるが、この他のメモリへの保持は、データの個々のデータ値の識別・選択動作を必要としない単なる複写による保持であり、機械的に他のメモリに書き写されるものであることから、数値項目と文字項目とに分けて読み出しても、他のメモリへの書き写しが速くなるわけでもなく、分けることに格別の意義が認められない。
さらに、データ処理に当たっては、文字項目と数値項目との振り分けだけでなく、数値項目の何番目というような数値項目におけるアドレス情報にアドレス変換をしなければならず、振り分け用及びアドレス変換用の余分なプログラムが必要になり、振り分けること自体の意味も認められない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項)、同(3)(一致点、相違点の認定)のうち、引用例に記載されたものが「文字項目と数値項目とはグループ分けされていることにも相違はない」こと、及び、両者は「データの項目をレコードごとに文字項目(商品コード)と数値項目(数量、単価)とにグループ分けし」、「各数値項目の後に数値項目に含まれない識別記号」を設けている点で一致することを除く事実、並びに、同(4)(相違点<1>についての判断)は、当事者間に争いがない。
2 本願発明の概要
甲第3及び第4号証によれば、本願明細書には、従来の問題点、本願発明の目的、前提技術、本願発明の作用効果として次の記載があることが認められる。
(1) 「従来、電子計算機の外部記憶装置に於て、計算機本体との間で読み書きする情報の最小論理単位である項目の記録境界には、ソフトウエア上もハードウエア上も統一的なルールが存在しなかったために、項目の境界を一義的に弁別してファイルのデータ構造を解明することは非常に困難であった。このため、ファイルを処理するプログラムの中にそれぞれのファイルのデータ構造を記述しておき、それによって計算機に処理を行なわせたり、あるいは、論理フイールド単位を外部記憶装置の物理的単位(フロッピイディスクに於てはセクター)に一致させるなどしなければデータファイルを解読することができず、特に、小型コンピュータ・・・の分野に於てデータファイルを汎用的に効率良く扱うことができなかった。」(甲第3号証2頁9行ないし3頁5行)
(2) 「(本願)発明の目的は、最も少ない情報量で項目の場所、長さ、属性等を弁別することができ、しかも、ファイルのデータ構造を知らなくても記録データを解読することができ、共通的に効率よく可変長シーケンシャルディスクファイルを扱うことができるデータ記録方式を得ることである。」(甲第3号証3頁6行ないし8行、甲第4号証2頁11行ないし14行)。
(3) 「これ等のデータには、計算機に於て計算処理される数値属性をもつもの(数値項目)と、計算処理に関係のない文字属性をもつもの(文字項目)とが含まれ、両者は計算機に於ける処理が異なっている。データファイルへの論理的な入出力は、データの集合体であるレコードと呼ばれる論理単位ごとに行なわれる。」(甲第3号証3頁17行ないし4頁4行)
(4) 「このように記録したものを読み出す場合には、トラツクを指定してランダムアクセスし、指定したトラツクをシーケンシャルに読み取れば、「カンマ」により文字項目を、またその後に「カンマ]が存在しない(ことを確認した)「ブランク」により数値項目を、それぞれ項目ごとに簡単に識別することができる。すなわち、従来知られているフロッピイディスクに於けるファイル管理手法のようにファイルごとにデータ構造を記述しなくとも(即ち、ファイルのデータ構造を全く知らなくても)各項目の識別が可能であり、しかも、シーケンシヤルに処理できるためレコードの長さに制限がなくなり、スペースが効率良く使用でき実質的に記憶容量が増加する。さらに、複雑なソフトウエアが不要であり、コンピュータに関する特別な知識を必要とすることなく小規模なソフトウエアで、コンピュータによる通常的な事務処理(マッチンク、グルーピング、ファイル作成、維持、処理等)を行なうことができる。以上説明したように、この発明のデータ記録方式は、レコードごとに文字項目と数値項目とをグループ分けしてシーケンシャルに記録することにより唯2つの識別記号だけで各項目の境界を識別することができ、また、ファイルのデータ構造を知らなくても(この方式で記録されていることさえ知っていれば)記録されたデータを解読することができ、小型コンピユータに於てデータファイルを共通的にしかも効率良く扱うことができるものである。」(甲第3号証5頁1行ないし6頁6行、甲第4号証3頁1行ないし11行)
3 原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 取消事由1について
<1> 甲第5号証(第1図、第5図-別紙参照)によれば、引用例には、1レコードが商品コード、数量、単価の3項目のデータからなる実施例が記載され、商品コードは文字項目であり、数量、単価は数値項目であるところ、商品コード、数量、単価の順にデータが記憶され、数量と単価の項目は隣接して記載されていることが認められる。
しかしながら、前記1に説示の事実(審決の理由の要点(2)-引用例の記載事項)によれば、引用例の実施例の各項目は各項目毎に固有の機能を指示する機能コードを有し、この機能コードはそれぞれ他と異なるものである。そして、引用例には文字項目と数値項目とをグループ分けすることを明記又は示唆する記載は見いだせない。以上によれば、引用例の実施例における項目同士は互いに独立したものとして扱われ、数値項目と文字項目とはたまたま二分できる配置となっているにすぎないものと認められる。したがって、引用例に記載されたものは文字項目と数値項目をグループ分けすることを示唆するものではないと認められる。
被告は、いわゆる表形式のデータの項目は、互いの項目の関連性などを基にグループを構成するように配置するのが普通であるとか、引用例の第1図のものに色情報を追加する場合は商品コードの次に書くのが普通であるなどとか、主張する。
しかしながら、引用例の第1図のもののように数量の項目と単価の項目が近接して配置されることは通常行われていることと認められるが、それは、合計金額を算出する上で必要であるとの理由で隣接して配置されていると考えるべきであり、両者が数値であるという理由だけで近接して配置されているわけではないと認められる。この点は、色情報等を追加する場合についても同様である。したがって、被告の上記主張は採用できない。
以上によれば、本願発明と引用例に記載されたものとは「データの項目をレコードごとに文字項目(商品コード)と数値項目(数量、単価)とにグループ分けし」ている点で一致するとの審決の認定は、誤りであると認められる。
<2> 前記1に説示の事実(審決の理由の要点(3)-一致点、相違点の認定)によれば、引用例に記載されたものにおける[G]、[+]、[P]等の機能コードは、文字項目及び数値項目には含まれないものであること、すなわち、ある項目の識別コードとして使用された記号は、そのデータファイル中では、数値項目においても文字項目においても使用できないものである。
これに対して、前記1に説示の本願発明の要旨によれば、本願発明では、「最後の数値項目を除く各数値項目の後に数値項目に含まれない第2の識別記号をそれぞれ設け」るものであり、「文字項目と数値項目とにグループ分け」されているものであるから、数値項目中で識別記号として使用された記号は、数値項目中では使用できないが、文字項目中では他の記号として使用できるものと認められる。
しかし、各数値項目の後に設けられた識別記号(機能コード)が数値項目に含まれないものであることについては、本願発明も、引用例に記載されたものも共通しているから、「各数値項目の後に数値項目に含まれない識別記号」を設けている点で両者は一致するとの審決の認定に誤りはない。
したがって、この点について一致点の認定の誤りをいう原告の主張は理由がない。
(2) 取消事由2について
前記(1)<1>で説示したとおり、引用例に記載されたものは、データの項目を文字項目と数値項目とにグループ分けするという技術思想を示唆するものではない。
したがって、これらの点を前提とする相違点<2>についての審決の判断は、その余の点について判断するまでもな、誤りであるといわざるを得ない。
(3) 取消事由3について
<1> 前記2(4)に説示のところからすると、本願発明は、
(a) データを読み取りコンピュータ内で文字項目と数値項目とを振り分ける場合には、各項目ごとに一々文字項目であるか数値項目であるかの識別をする必要がなく、グループ分けされている文字項目と数値項目とをグループごと振り分けることができる。
(b) すべてのデータファイルを共通的に効率よく扱うことができ、処理手順を少なくすることができるからプログラムを短くすることができる。
(c) 文字項目と数値項目とにグループ分けしたことにより、データの項目の種類がいくら多くなっても唯2個の識別記号により各項目の境界を識別することができる。
との効果を生ずるものと認められる。
<2>(a) 被告は、引用例に記載されたものにおいても、Gをもとに、Gに一致するコードを有するデータを文字項目、G以外のコードを有するデータを数値項目として振り分ければ、データ構造を知らなくとも実質的に1つの機能コードのみでデータの解読及び境界識別ができる等の効果を奏する旨主張するが、この主張は、文字項目が複数の場合には成り立たない議論であり、採用できない。
(b) また、被告は、データを読み取り、コンピュータ内で文字項目と数値項目とに振り分ける場合に各項目ごとに一々文字項目であるか数値項目であるかの識別をする必要がないとの点は、本願の特許請求の範囲には記載がなく、要旨外の主張として失当である旨主張するが、前記2(3)に説示のとおり、本願明細書には「これ等のデータには、計算機に於て計算処理される数値属性をもつもの(数値項目)と、計算処理に関係のない文字属性をもつもの(文字項目)とが含まれ、両者は計算機に於ける処理が異なっている。」と記載されていることを前提に、本願明細書中の「ファイルごとにデータ構造を記述しなくても(即ち、ファイルのデータ構造を全く知らなくても)各項目の識別が可能であり、」との記載を読めば、上記「データを読み取りコンピュータ内で文字項目と数値項目とに振り分ける場合に各項目ごとに一々文字項目であるか数値項目であるかの識別をする必要がない」との点は、当業者に自明の効果と認められる。したがって、この点についての被告の主張は採用できない。
(c) さらに、被告は、本願発明もデータ処理の際外部記憶装置のデータを一時他のメモリに保持するものと認められるが、この他のメモリへの保持は単なる複写による保持であり、数値項目と文字項目とに分けて読み出しても他のメモリへの書き写しが速くなるわけでもない、また、文字項目と数値項目との振り分けに伴って、数値項目の何番目というような数値項目におけるアドレス情報にアドレス変換をしなければならず、振り分け用及びアドレス変換用の余分なプログラムが必要になり、振り分けること自体の意味も認められない旨主張する。
しかしながら、外部記憶装置のデータが一時保持される他のメモリが、文字項目はデータメモリエリアの文字項目の記憶エリアに記憶され、数値項目はデータメモリの数値項目の記憶エリアに記憶される構成であれば、文字項目は文字項目の記憶エリアへ、数値項目は数値項目の記憶エリアへそれぞれ記憶するという処理が必要不可欠であると認められるところ、本願発明のデータ記録方式による外部記憶装置を用いた場合には、データの項目はレコードごとに文字項目と数値項目とに既にグループ分けされて記録されているから、文字項目は文字項目の記憶エリアへ、数値項目は数値項目の記憶エリアへそれぞれグループ毎にまとめて記憶することができ、引用例に記載されたものの場合と比較して、処理速度の向上を図るとともに、1項目毎にすべての項目を判断する必要がないから処理手順を短くすることができ、プログラムを短くすることができると認められる。
また、数値項目の何番目というような数値項目におけるアドレス情報にアドレス変換をするために振り分け用及びアドレス変換用の余分なプログラムが必要となるとの面で不都合があるとしても、そのことは、上記文字項目と数値項目とに振り分ける際に処理速度を向上でき、プログラムを短くすることができるという一面での効果を否定するものでない。
したがって、効果の点についての被告の主張は採用できない。
4 よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙
<省略>